さんぽ学派

大学生のあれこれ

企業論 第1章 「財・サービスの提供機関」としての企業

企業論 第1章 「財・サービスの提供機関」としての企業

 

 

問題 Advanced

PPMとはどういうものか。

 PPM=ダイナミックなカネに関する相補効果を発揮するためのポートフォリオ

 企業を経営する上で、設備投資のタイミングが非常に重要である。PPMでは現在の収益性と将来の成長性のバランスをとり、現在の花形部門から将来成長性のある問題児部門への投資を行うことで収益性と成長性の両立を試みるものである。

 PPMでは製品ライフサイクルと競争ポジションを理論のベースとしている。製品には導入期から成熟、衰退という段階で、キャッシュフローのサイクルやインフローが異なる。また、同時に市場における競争ポジション(市場占有率)に伴い収益性が変化するという理論をベースにしている。例えば、市場の成長性が大きい市場において、リーダーのポジションにある企業であれば、市場は拡大するため大きな利益を得ることができるが、同時に成長性の高い市場であるので、追加の投資も相当額必要であることが考えられる。従って、こうした市場と競争ポジションにおいては一般的にキャッシュのインフローも大きく、アウトフローも大きい。また、リーダーという地位からも規模の経済性や経験効果が働くため、業界の他社よりもより低コストで製造できることが予想される。

 これらの市場の成長性と競争ポジション(市場内シェア)の2軸から事業のポートフォリオを示すために、PPMは図解で示される。

 縦軸に市場の成長性、横軸に市場の相対シェアをとり、さらにそれを4つの次元に区切って示される。なおここで注意したいのは、横軸は対数メモリであり、また原点に向かって増加している。4つのセルは右上から時計回りに問題児、負け犬、金の生る木、花形(スター)に分けられている。以下で各セルごとの特徴を説明する。

 問題児

 このセルは市場の成長率が高いにも関わらず、相対シェアが低く、チャレンジャーやフォロワーといった競争ポジションにある事業を指す。製品ライフサイクルにおける導入期、成長期の製品を扱うため、キャッシュフローとしては、アウトフローが大きいにも関わらず、インフローがそこまで大きくない。キャッシュフローとしてはマイナスであるが、将来的に市場ポジションが上がることで、花形や金の生る木に成長する見込みがある。従って、金の生る木や花形といった部門から得た収益をこのセルに分配することが戦略上の示唆である。

 負け犬

 このセルは市場の成長率が低く、相対シェアも低いというセルである。製品ライフサイクルでは衰退期の製品がこのセルに位置する。市場が縮小しているので、インフローが少ない代わりに、投資にかけるアウトフローも小さい。従って、キャッシュフローの観点からは必ずしもマイナスではなく、ポジションの維持だけを目指せば、問題児よりも収益性があることもある。しかし、市場の将来性を考えた場合、このセルでは撤退か脱成熟かという戦略上の選択肢もある。

 金の生る木

 このセルは市場の成長率が低い一方で、市場シェアが高い部門を指す。製品ライフサイクルとしては成熟期を迎えた事業であり、追加投資の必要性が少ない割には、リーダーのポジションを生かして低コストで生産できるため収益性が高いセルである。従って、キャッシュの流れとしては、インフローが大きく、アウトフローが小さいという結果になる。ここでの戦略的示唆は、ポジションを維持して搾り取れるだけの利益は全て搾り取り、その収益を問題児事業へ再投資することである。

 花形

 このセルは市場の成長率が高い上に、市場のシェアも大きい事業が位置する。このセルでは、市場の成長率が高いので事業への投資額は大きく、かつシェアも高いため収益も大きい。従って、キャッシュのインフローとアウトフローのどちらも大きい。将来的に市場の成長率が鈍化し、そこで生き残ることができれば金の生る木として大きな資金収入源となりうる。

 以上のようにPPMは全社的な視点から事業ポートフォリオを見直し、投資を必要とする部門へ、その必要性の小さい部門から投資を促すことができる。しかし、このPPMの背後にはいくつかの前提がある。まず、製品に導入期から衰退期までの段階が存在するという製品ライフサイクル理論があるが、必ずしも全ての製品がこの段階を持つことはないことに注意するべきである。また、果たして製品がどの段階に属するかを客観的に判断するのは非常に難しい。また、リーダー企業になれば規模の経済性や経験効果が働くことが織り込まれているが、そうした効果が限定的な製品も存在する。例えば、技術革新が非連続的に起こる場合、製品自体が次々と新たな製品に代替されるため、十分な経験効果は発揮されない。また、事業単位をどうSBU(戦略的事業単位)として区切るかは分析者の視点によって異なるため、それに伴って「市場」の範囲やポジションが異なり、分析者の意図が分析結果に過分に影響する可能性もある。さらに、事業間において戦略的な関連性があり、相乗効果が働いている可能性もあるので、事業ごとを単体とみなしてそれぞれをセルに埋め込むことが憚られることもある。これらの問題点を踏まえた上で、PPMをどう使い、長期的成長性と短期的な収益の両立を図るかが、経営者に期待されている。

 

②ポーターのFive forces とはどのようなものか。

 ポーターのFive Forcesは業界の収益性を5つの競争要因に分けて示したものである。その内容は、既存市場の対抗度の強さ、買い手の交渉力、売り手の交渉力、新規参入の脅威、代替品の脅威の5つである。

 このFive Forcesは産業組織論を応用したハーバード学派の代表的な競争分析フレームワークである。ポーターは市場におけるシェア(寡占率)が企業の利潤率に影響を与え、業界ごとに収益性が異なることを示したSCPパラダイムを拡張した。SCPパラダイムは市場の収益性を対抗企業間のみとして扱っていたが、これをFive Forcesでは収益をめぐる争いを対抗企業間だけでなく、売り手、買い手、新規参入者、代替業者を加え、より広義のライバル関係を分析している。以下でそれぞれの業界のプレイヤーを説明する。

 まず、既存市場の対抗度の強さは、自社が属す市場の特徴が収益性にどう影響しているか分析するものである。以下のような特徴を含んだ市場の場合、収益性が高い。

①これまでの産業組織論で明らかなように、業界の集中度が高い場合は個々の企業の利潤率も高い。しばしば企業の集中度はハーフィンダール・ハーシュマン指数(HHI)で分析され、IHIが高い業界、例えば通信業界、家庭用ゲーム業界等はHHIが低い業界よりも収益性が高いと予測できる。

②産業の成長性が高い場合、一般的に企業は他企業への対抗よりも自企業の生産体制のラインアップ等を行わなければならず、対抗度は小さい。

③固定費率が小さい。固定費が大きい場合、業務を停止していても費用は発生するため企業はそれを回収するためにたとえ収益性が悪化するような価格であっても、製品を製造し続ける可能性がある。

④製品の差別化要素が多様であり、顧客からすれば製品間のスイッチング・コストが大きい。

⑤競争相手の技術が自社よりも劣っている、もしくは多様でない。

⑥戦略的に魅力がない業界。例えば、製品ライフサイクルであれば衰退期に入った業界。

⑦退出障壁が小さい。投資資本の回収が長期に渡る場合、企業は収益性を悪化させてでも償却できるまで業界に居座ろうとするため収益性が悪化する可能性がある。

 次に新規参入の脅威について、新規参入者は市場の集中度を低下させ収益性を低下させるだけでなく、業界の競争の軸を変化させ、既存企業の収益性に影響を与える。以下のような場合、新規参入の脅威は小さい。

①参入障壁が高い。例えば、固定費率が高く、多額の初期投資が必要である場合や流通チャネルへのアクセスがしにくい場合は参入しにくい。また、規模の経済性や経験効果が働きやすい業界では、既存企業のコスト水準に新規参入企業が追いつくことが難しいため、新規参入が行われにくい。

②予想される既存企業の反撃が強い場合。既存企業が巨大な資本を持っており、チャレンジャー企業の差別化戦略を同質化で迎え撃つことが容易である場合は新規参入の脅威は小さい。

 買い手の交渉力は、流通で言えば川下に当たる企業の交渉力のことを指す。スイッチング・コストが低く、川下の企業が売り手企業を多数の企業から選べる場合、買い手の交渉力は強くなる。この場合、売り手は買い手に対して、製品価格の値下げやリベートなどを検討しなくてはならずこれらが収益性を圧迫する。スイッチングコストに加えて以下の場合も買い手の交渉力が上昇する。

 ①買い手の方が売り手よりも少なく、集中度が高い場合。

 ②売り手の製品がコモディティに近く、差別化されていない場合。

 ③買い手が後方統合をしやすい場合。

 ④買い手が情報流の起点を握っており、売り手が買い手からの情報提供に依存せざるを得ない場合。または、買い手が十分に売り手の情報を持っている場合。

 ⑤売り手の製品が買い手のコストに占める割合が小さい場合。

 ⑥売り手の製品が買い手の品質に影響を及ぼしにくい場合。

 売り手の交渉力は、買い手の交渉力の逆であり、売り手が買い手の価格を左右することができるかどうかである。売り手の交渉力に影響を与える要素は買い手の交渉力に影響を当てる要素の逆であり、前述したためここでは省略する。

 代替品の脅威は、既存市場の製品・サービスに代替するものの登場が既存市場の収益性に影響を与えることを示している。技術革新によって既存の製品に変わる製品が生まれた場合、既存市場は著しく衰退する可能性がある。また、代替品は何を代替品として見るかによって変化するため、一見して直接の代替品ではないと思われるものが代替品となり得る可能性があるため注意して分析する必要がある。

 以上の5要素が業界の収益に影響を与えると提唱したのがポーターのFive Forcesである。しかし、Five Forcesにも課題が存在する。まず、第一に業界の境界をどう設定するかで市場のプレイヤーや収益性が変化する可能性がある。また、これはFive Forcesを提唱するハーバード学派の競争戦略論の欠点でもあるが、市場を静態的にしか捉えきれていないということである。市場はその範囲も含め、競争が新たな競争を生み出すというようにダイナミックに変化している。従ってFive Forcesで業界の分析をしている最中に業界自体が変わってしまっている可能性もある。さらに、現代の競争市場においては時に協力し合う協業が見られ、必ずしも全てが収益のパイを争うプレイヤーとはならなず、この視点もかけていることが指摘できる。