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大学生のあれこれ

【第11章】ゼミナール・マーケティング入門 第2版 

【第11章】ゼミナール・マーケティング入門 第2版 

 

①デジタル技術の導入で、様々な家電製品にどのような用途の変化が生じたかを検討しなさい。

 デジタル技術の家電への応用をマイコン(マイクロプロセッサ)の導入と現代のIoT(Internet of Things)とAIという2期に分けて検討する。

 まず、マイコンの導入では、それまで家電の用途は人間の労働の補助的な役割を担うだけであった。それまでの家電はある程度の自動化が可能であったものの、あくまでも人間の指揮命令や補助がなければ自らを制御し得ないものであった。従ってそれまでの家電の用途は、重労働の補助的役割に限定されていたと言える。しかし、デジタル技術であるマイコンが導入されてから、家電は自律的な制御を可能とし、用途は自律して家事を自動的にこなすものへと変化していった。

 IoTでは、自律的制御ができる家電が他の家電と連携して稼働できる。そうすることによって、家電は一つ一つが独立してそれぞれの用途を発揮するよりも、家電の組み合わせによって、個別で稼働するよりもより高い利便性を発揮する。つまり、システムアップ的な補完品の組み合わせによる便益がもたらされている。

さらにAI(Artificial Intelligence)を組み込むことで人間が指揮命令する前に人間の行動に合わせて自律的に稼働できるようになる。例えば、パナソニックの「スマート家電」では部屋の空気が汚れる前に自動的に空気清浄するエアコンなどが発売されている。

以上のようにデジタル技術の導入で、用途は人間の補助から自律的にこなすことへ、さらに連携して個別の用途を超えた用途をこなすように進化してきている。今後は家電が人間の制御から離れて自律的に稼働できるようになる日も近いだろう。

業界標準の成立は産業にどのような影響を与えるのかを説明しなさい。

デファクト成立まで

「競争」的側面と「協調」的側面

企業がデファクトを成立させようとする際には、二つの行動が観察できる。一つは自前でデファクトを達成するために、技術をクローズドに扱う行動であり、もう一方では自前の技術を他社メーカー採用するように積極的に技術をオープンにする行動である。端的に言えば、デファクト成立には「競争」と「協調」の2面性がある。この2つの行動のどちらの割合が大きいかで、デファクト成立がもたらす影響は異なる。

 クローズドな「競争」が行われた場合、企業は自社の技術をデファクトにしようと他社間で価格競争を行う可能性が高い。こうした場合、供給業者の収益性は損なわれるだけでなく、顧客も乱立する製品フォーマットのどれを採用すればいいか決定しにくい。また、製品間で互換性も小さいため顧客の便益は限定される。従って、顧客は往々にして購買を控え、様子見を決め込むため、それによって市場が思うほど成長しかったり、そもそもデファクトが成立する前に需要が小さく、供給側が共倒れになるケースもある(淺羽, 1995)。このような場合、企業はデファクトを築くために獲得した知識や投資を次の事業に活用できずに膨大な埋没費用が発生する可能性がある。また、例えデファクトが成立したとしても基幹的な技術がクローズドであり、製品の差別化が困難な場合、供給業者であっても収益性が向上しないこともある[1]

 一方で、ネットワークの外部性が強く働くほど、企業は技術をオープンにして「協調」的な戦略をとる(淺羽, 1995)。補完財生産のための知識や資源が事業のコアとなる製品の必要とするものと異なり、補完財を社内で賄うより、ネットワークの外部性を利用して他社に依存した方がいい場合、企業は技術を積極的にオープンにする[2]。具体的には特許使用料の引き下げや、製品価格の抑制である。しかし、こうした「協調」下においても全てをオープンにしてしまうと他社のフリーライドを容認し、デファクト成立のために投資した資金を回収できない。従って、技術をオープンにしたとしても、収益性を高めるためにはクローズドな戦略をとることが多い。例えば、山田(2008)ではコアな製品の技術をオープンにする一方で補完製品の技術をクローズドにすることで補完製品から利益を得る方法が紹介されている。

 このように供給者の側ではデファクト成立に関して自社の技術をどこまでオープンにするかが焦点となることがあり、こうした行動によって業界の構造や収益性は大きく異なる。

デファクト成立後

デファクト成立過程において、前述のように需要側も大きな影響を及ぼす。需要側はデファクト候補の製品の将来性を予測し購買する[3]。一旦デファクトができてしまうとこうした課題は取り除かれる。デファクトが成立すると製品技術や仕様の大幅な変更はなくなるため、供給側企業は安定して生産やマーケティング経営資源を分配できる。顧客や流通業者などの需要側も将来性を持って安定して購買もしくは投資を行うことが可能となる。 

 また、補完財を供給する業者もより積極的にネットワークに参加するようになる。結果として製品や技術の拡張が促され顧客の便益は増大する。

さらに、基幹的な仕様や技術の競争が終わると、企業は製品のインターフェイスの改善に取り掛かるため、多様な顧客のニーズを満たす製品が誕生しやすい。

以上のようにデファクトが成立は業界顧客と企業の好ましい循環を持つ理想的な業界成立に貢献する可能性が高い。

しかし、次の問いで記述するようにデファクト成立が、必ずしも顧客の便益を最大化するとは限らない。というのも、最も優れた技術がデファクトを形成するわけではなく、デファクト形成には上記のような経営戦略が功を奏する可能性があるからである。

③「ネットワークの経済性」の効果を説明しなさい。

 ネットワーク効果とは製品やサービスの使用者もしくはネットワークサイズが大きくなればなるほどそのネットワーク参加者が得られる便益も増大するということである(池尾ら, 2010)。しばしば直接効果と間接効果に分けて説明され、前者ではネットワークサイズが直接的に便益に影響することを指し、後者では補完品が介在して間接的に効果がもたらされることを指す(網倉・新宅, 2012)。

ネットワークの外部性は企業活動と顧客の行動の両方から影響を受けて成立するものでる。顧客はネットワークに参加すると自己の便益がどう変化をするかを観察し、予測してネットワークに参加するかどうか決定する。例えば、ある製品の事業から企業が撤退するのを見た顧客は悲観的な予想を形成し、ネットワークへの参加を控え、結果的にネットワークの外部性が低下し本当にその製品や規格自体が消滅するということも考えられる。

企業活動の面では、ネットワークの外部性が生じた場合、業界のリーダーの収益性は向上する。一旦、リーダー企業を含む多数派に加われば、自動的に競争優位が築かれ市場の支配的なポジションに居座ることが可能となる。チャレンジャー企業は定石的に差別化してリーダー企業を攻撃するが、たとえその差別化が技術的に優れた製品を提供するものであったとしてもネットワークの外部性が働く市場では有効ではない。

 なぜならリーダー企業はネットワーク構築で得られた高い収益によって、挑戦してくるチャレンジャーに対して強力な同質化で迎え撃つことが可能であり、また、ネットワークを維持するために大規模なプロモーションが可能であるからだ。

 従って、ネットワーク外部性が機能する市場においてはチャレンジャーの差別化は容易ではない。加えて、そうしたネットワークの外部性は企業の協調をもたらすため、技術競争が生じにくい。既存のネットワークから他のネットワークへの移動障壁ができる可能性もあり、そうなればますます技術競争は蔑ろにされ、企業はネットワーク内における販売競争に走りがちである。こうした市場においては結局のところ、同質化された技術的に劣った製品の寿命がのびることにつながる。

 しかし、こうした環境下のリーダー企業の振る舞いは、ときにして自ら弱体化の要因を作る可能性もある。製品ポートフォリオマトリクスの視点からは、本来であればリーダー企業は「金の成る木」から「問題児」にキャッシュを分配し、新たな市場でシェアを拡大するべきである。しかし、そうした内部資源分配は困難である。なぜなら、リーダー企業は新規製品を開発するためには自社の既存の製品から差別化をしなければならないからである。それは、リーダー企業に事業間のカニバリゼーションを発生させる可能性もあるうえに、「金の成る木」事業は社内でも発言力があることが多く、他事業部への収益分配に前向きではないからである。従って、リーダー企業はそうした声に甘んじてイノベーションを怠るのである。その一方で、他分野から意図しない攻撃を仕掛けてくる企業が現れた場合、ネットワークの外部性とリーダーの地位に甘んじていた企業は時として大きな痛手を負うこともあるだろう。

 以上のようにネットワークの外部性とは時としてリーダー企業に「勝者総取り」の強力な市場での支配力を与える一方で、リーダー企業の自爆をもたらすという反面もあるのではないだろうか。一般的に先行者優位は崩れにくいが、巨大なネットワークを持つからこそ、そのネットワークに対する批判も一旦生まれてしまうと瞬く間にネットワーク全体に広がる可能性もある。こうしたネットワークの外部性の二面的な効果によって、チャレンジャー企業はリーダー企業が敵失となっているうちに攻撃する機会を得るのである。

また最後に、顧客の側からはネットワークの外部性によって技術競争が滞り、劣った製品を選択するしかないという場面に遭遇することもあり得ることも指摘されるべきだろう。

④なぜ産業が成長するためには「拡張製品」が必要となるのかを説明しなさい。

  製品ライフサイクルの生成期の主な顧客は革新的採用者であるが、彼らの市場規模は小さい。クリティカルマス得るためには、企業はより規模の大きな初期採用者に選択される製品を作る必要がある。革新的採用者と初期採用者の大きな違いは、革新的採用者は新製品の便益が限られたものであったとしても、それを自ら拡大して使用できる一方で、初期採用者は製品を便益の束とみなし、その束自体を評価する点にある。従って企業は顧客のニーズ(購入目的)をより幅広く満たせるような製品を開発することを目指す。しかしながら、単体の製品だけでこうした分散したニーズに応えるのは困難である。というのも、多くの顧客のニーズに応えられるように製品本体に多くの機能を盛り込んだ場合、製品価格は高くなる一方で、全てを使いこなす顧客は少数であり、顧客は製品を割高だとみなすからである。従って、本体と拡張製品という組み合わせ(パッケージ)を顧客に提示し、顧客が自らのニーズに合うように組み替えてもらった方が顧客にとっての便益の束を強化できるのである。以上のように様々な顧客の便益に対応した製品を拡張製品との組み合わせで実現することで企業はより大きな市場シェアを獲得することができるため、拡張製品が必要となるのである。

⑤衰退期を迎えた産業で新たな成長の機会をつかんだ企業の事例を見つけ、どのような事業の再定義が行われたかを調べなさい。

【GIZMON・Utulens】

 スマートフォンの誕生により、明らかにカメラの市場は衰退しており、現在では出荷数量がピークの6分の1ほどになっている。そうした中で、熊本にある「合同会社ギズモン」同社のブランド「GIZMON[4]」から「写ルンです」のレンズを使用した交換レンズである「Utulens」を発売した。この「Utulens」はカメラ交換レンズ部門でAmazon2位、ヨドバシカメラでは1位の売れ筋ランキングにランクインするヒット商品となっている。

Instagram」や写真加工アプリなどで「トイカメラ風フィルター」が人気を博し、アナログ製品の懐古的な消費ブームが近年起こっている。カメラを美しい画像を簡単に記録する機械と捉えるのであれば、スマートフォン搭載カメラが圧倒的な強みを持っている。しかし、写真を撮ることの意味付けや経験に着目して「撮る楽しさ」とカメラ事業を捉えれば、高い画素数で取れることが重要ではなく、「味」がある写真やその経験をどうシェアしたり、加工したりすることに重点が置かれ、レンズの性能にはあまり重要ではない。こうした顧客層のニーズに「GIZMON」は対応しシェアを伸ばしてきたと考えられる。

しかし、以上のような経緯があっても衰退期の市場は非常にニッチである。「Utulens」が広まった理由にはもう一つある。それは「Utulens」はミラーレスカメラに対応しているからである。日本国内ではミラーレスカメラの販売台数は一眼レフを超えており、成長市場である。カメラ全体で見れば衰退事業ではあるが、ミラーレスや一眼レフなどに業界をさらに細かくセグメンテーションすれば、成長市場を見つけることも可能である[5]。そして成長段階にある製品の補完品として当該事業を定義付けることで、自らの製品の脱成熟を達成するということが観察できる。

つまり、脱成熟を超えて次の波を作るには、次のブームとして成長期にあるような製品の補完品となり、関連性の高い波に次々に乗ることで自社の製品サイクルを延ばすということが観察できるのではないか(図1参照)。例えば、「チェキ」であれば最新の機種ではアプリケーションがなければほぼ機能しない。これも、スマートフォンという製品と互換性を作り、その補完品となることで新たなブームに相乗りするということが観察できる。

自社の製品を衰退に追い込むような次世代の製品の補完品となるように事業を再定義することで成長の機会を掴める。「GIZMON」のブランドコンセプト「~のかたちをしたカメラ、カメラのかたちをした〜」がまさにこの補完品としての事業定義であり、「GIZMON」ではカメラのかたちをした「スマートフォン・ケース」も人気な製品として発売されていた。

図1近傍の製品ライフサイクルへの乗り換え(X軸:時間,Y軸:売上高)。

出所:筆者作成[6]

 既存の市場が衰退するときは、新規製品と既存の製品間に何らかのトレードオフ関係が生じるために、既存企業が新市場で成長できないことが多々あると考えられる。従って上記のように次々と波に乗ることは難しい。しかし、衰退期においては、新製品との互換性を高め、ゆくゆくはその製品の補完品となるように事業を再定義することで成長の機会を掴むこともできるだろう。

以上のように、今日的な競争を製品間だけでなく、補完品を含めた多面的な視点から観察するべきだろう。

 

参考文献

網倉 久永・新宅 純二郎(2012)『マネジメント・テキスト 経営戦略入門』日本経済新聞社pp.256-292。

淺羽 茂(1995)『競争と協力の戦略』有斐閣pp.39-57。

淺羽 茂(2004)『経営戦略の経済学』日本評論社pp.185-196。

池尾 恭一・青木 幸弘・南知 恵子・井上 哲浩(2010)『マーケティング有斐閣pp.362-380。

石井 淳蔵・栗木 契・嶋口 光輝・余田 拓郎(2013)『ゼミナールマーケティング入門第2版』日本経済新聞社pp.317-352。

遠藤 妙子・柳川 範之(網倉 久永・新宅 純二郎編) (2001)「製品標準化の経済学的分析―互換性と標準形成の企業戦略―」『競争戦略のダイナミズム』日本経済新聞社 pp101-124。

遠藤 妙子・柳川 範之(網倉 久永・新宅 純二郎編) (2001)「技術規格の業界標準化プロセス―ネットワーク外部性にもとづくバンドワゴン効果の検証―」『競争戦略のダイナミズム』日本経済新聞社pp125-140。

沼上 幹(2017)『経営戦略の思考法』日本経済新聞社pp255-267。

山田 英夫(2008)『デファクト・スタンダードの競争戦略 第2版』白桃書房pp.356-369。

Kotler and Keller (2006), Marketing Management, Twelfth Edition, Pearson Education. 恩藏直人監修・月谷真紀訳(2008)『コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント』ピアソン・エジュケーションp.403。

一般社団法人カメラ映像機器工業会(2019)「CIPA出荷実績&見通し」http://www.cipa.jp/stats/history_j.html(参照2019年6月23日)

合同会社ギズモン「売り上げランキングがAmazon2位でヨドバシが1,2フィニッシュです」https://gizmon.co.jp/archives/2847(参照2019年6月23日)

合同会社ギズモン「GIZMON Utulens」https://gizmon.com/ja/products/utulens/(参照2019年6月23日)

合同会社ギズモン「GIZMONのデザインポリシー」https://gizmon.com/ja/designing-policy-of-gizmon/(参照2019年6月23日)

パナソニック株式会社「エオリアアプリ」https://panasonic.jp/aircon/app.html(参照2019年6月23日)

清家 英明(2014)「第0.5回番組タイトルを間違えてしまいました」ギズモショップのギズモキャスト(Podcast)、2014年11月6日。

 

[1]例えば、パソコンのOSを作るメーカーが高い収益性を確保する一方で、その他の完成品メーカーは熾烈な価格競争に追い込まれることがあげられる。

[2]従って、往々にして市場地位が低い企業はオープン戦略をとる傾向がある(淺羽, 1995)。

[3]ここで注意しないといけないのは、補完製品のアソートメントが充実しているかどうかも製品の判断の一部となり得る点である。従って、デファクト成立には補完財の生産業者にも目を向けるべきである。

[4]同社の代表の清家氏によると「GIZMON」は、「~のかたちをしたカメラ、カメラのかたちをした〜」を作るブランドである(清家, 2014)。

[5]カメラ市場は明らかに衰退期にあるが、市場規模は1998年までのフィルムカメラ全盛期の未だ2倍以上ある。

[6]この図はKotler& Keller(2006)の製品ライフサイクルの波形パターンに似ているが、彼らのいう古い技術が新しい用途が発見されるという意味合いではなく、既存の製品の波ではなく、新しい波を見つけて乗り換えるという、いわば製品ポジションの変更の意味合いを含んでいる(破線部分で示されているように)。